新陳代謝を繰り返しながら変化を続ける街の一角に、私たちの生活の起源が自然にあり、その延長に文化があることのリマインドとなるストアを計画した。素材に用いるのは、敷地から真北50km先にある美濃エリアの土。人間は遥か彼方より、形のない土を利用し、時に食事のための器や生活を彩る花器として、時に建築に表情をもたらす左官材やタイルなどの材料として、様々な試行錯誤とともに生活に土を取り入れてきた。私たちはこのストアにおいても、人々がそのような不定形の自然を借り、形にする試みそのものを空間にしたいと考えた。
ストアが入ることになったのは、二面あるウィンドウが特徴的な空間である。その与件を意識しながら壁ラインを設定し、ひと繋がりの空間でありながらも、プライベート性があるエリアとメインのシンクがあるパブリックなエリアへと緩やかに分けた。素材に用いた美濃エリアの土は、壁面では左官材として用いることにした。そして、同じエリアでも異なる場所から採れる二色の土でこれを塗り分け、空間に奥行きをもたせることを考えた。さらに棚板や収納など耐久性が求められる場所には木を用いて、壁面と同じ土を粉末化して木を土で染色した。水回りなど一部の仕上げには金物を用いながらも、ベースには土から生まれる多様な表情を引き出し、ミニマルな雰囲気の中に土特有の柔らかさや落ち着きが同居する空間を目指した。(二俣公一/ケース・リアル)
「イソップ 名古屋 栄店」
所在地:愛知県名古屋市中区栄3-3-1 マルエイガレリア 1階
オープン:2022年3月
設計:ケース・リアル 二俣公一 大仁田雄輝
施工:ディー・ブレーン
照明計画:BRANCH lighting design 中村達基
床面積:87.17㎡
画像提供:イソップ
【内外装仕様データ】
床:合板下地タイルカーペット貼り
壁:PBt12.5二重貼り下地左官木ゴテ仕上げ防塵クリア AEP塗装(ライトグレー)
天井:躯体天井あらわし
その他:什器/ホワイトアッシュ練付合板フラッシュ組みの上染色クリア 小口・無垢材 シンク/天板・SUSバイブレーション仕上げ
二俣公一/ケース・リアル
空間・プロダクトデザイナー。1975年鹿児島生まれ。福岡と東京を拠点に空間設計を軸とするケース・リアル(CASE-REAL)とプロダクトデザインに特化する二俣スタジオ(KOICHI FUTATSUMATA STUDIO)の両主宰。国内外でインテリア・建築から家具・プロダクトに至るまで多岐に渡るデザインを手がける。近作にDDD HOTEL、イソップ新宿店、Chalet W、キウルベンチ(Artek)など。作品の一部はサンフランシスコ近代美術館の永久所蔵品に選出されているほか、その他受賞多数。2021年より神戸芸術工科大学客員教授。