ESR弥富木曽岬ディストリビューションセンター KLÜBBエリア

働き方改革、コロナ禍という昨今の社会情勢を受け、これまで物を集積することに注力してきた物流倉庫も時代にあわせて変化している。タカトタマガミデザイン(以下TTAD)のクライアントであるESR株式会社が開発する大型物流施設では、「HUMAN CENTRIC DESIGN(人を中心に考えたデザイン)」というESRのワーカーファーストの企業理念のもと、延床10万㎡以上の施設にはKLÜBBエリアと名づけられた共用スペース(休憩ラウンジ、売店、託児所)を完備している。ワーカーに快適な職場環境を提供することでテナント企業のみならず地域社会、社会全体への長期的な利益の提供を目指している。TTADは初期からこのKLÜBBエリアの設計を手がけており、このESR弥冨木曽岬ディストリビューションセンターが9件目となる。
本施設は延床面積約15.5万㎡、高さ約30m、中京圏最大級の物流施設であり、三重県木曽岬町の干拓地に建つ。木曽川河口のデルタ地帯に広がる木曽岬町には全貌を俯瞰できる丘陵や山は無く、本施設のような大規模建築物も無かった。KLÜBB Lounge(休憩ラウンジ)に与えられた環境は本施設の最上階で、木曽岬町では前例がない地上22mの空間だった。こうした平坦地の環境や立地条件から、町の新しい風景となりうる眺望空間をつくりたいと考えた。そこで日本各地にみられる自然現象の名残である柱状節理を抽象化した洞窟状のラウンジ空間をデザインした。柱状節理とは多角形の岩石の柱が自然現象によって隆起した集合体であり、その力強さや無骨な表情がその表現に適していると考えたからだ。
洞窟状の空間に入ると眼前には天井よりに垂れさがった柱状節理の垂れ壁が見られる。この垂れ壁は背景である見慣れた景色にアクセントを与え、周辺の景観を取り込んだ借景を生み出し、さらには開放感やダイナミズムと共に包み込まれる安心感をもたらす。また、垂れ壁から連続するひな壇上に構成された座席群は、子供の頃の感覚を誘発し、自ずと高所へとよじ登る好奇心を駆り立てる。登り、振り返り、腰掛ける時には、この形状が視線を遮ることのない眺望台として有効に機能していることに気づかせてくれるだろう。
柱状節理の断面は、地理学的にボロノイ図形となることから本計画もその形成プロセスを踏襲した。ボロノイ図形の特徴はポリゴンの母点間の距離が境界の二等分線となることであり、これを物理的空間に応用することで人と人との身体的距離感を再構築するきっかけになると考えた。これはコロナ禍による社会的要求から発想したものだが、屋外居住空間の有用性もまた再認識されていることからテラス席も設けている。
柱状節理状の立体による非日常性は転地効果を生む仕掛けである。そこに無意識に身体的距離を選択するアクティビティを潜ませた。この試みは多様なコミュニケーションが次々と生まれる新時代においても、人と人との繋がりをより豊かにするためのヒントになるのではと考えている。(玉上貴人/タカトタマガミデザイン

 

「ESR弥富木曽岬ディストリビューションセンター KLÜBBエリア」
所在地:三重県桑名郡木曽岬町
オープン:2022年5月2日
設計:タカトタマガミデザイン 玉上貴人 中川隆太
設計協力:Architectural Design Office 【hyphen】 松山 崇
床面積(ラウンジ):315.05㎡
Photo:吉村昌也

【内外装仕様データ】
床:コンクリート下地長尺塩ビシート貼り コンポジションビニル床タイル貼り
壁:PBt12下地左官材仕上げ(ジョリパット/アイカ工業) 天然木クロス貼り
天井:PBt12下地(ジョリパット/アイカ工業) ステンレス複合版
その他:家具(aRC FURNITURE POINT) ボロノイ柱状体/木下地樹脂モルタル、 アルミPL下地特殊塗装


玉上貴人/タカトタマガミデザイン
建築家。1973年横浜生まれ。明治大学理工学部建築学科卒業。設計事務所勤務、ヨーロッパ各国を旅行ののち、2000年にタカトタマガミデザインを創業。2015年にはタカトタマガミデザイン作品集出版。建築・インテリア・家具等、手がけるプロジェクトの規模や用途は多岐にわたる。使い手や場所の個性を空間や形態に反映させる作風が特徴。現在、日本大学理工学部で非常勤講師を兼任。

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