大堀相馬焼松永窯

東日本大震災から10年。福島県にある「大堀相馬焼松永窯」は、新たな地でスタートを切った。施主である大堀相馬焼松永窯は、300年以上続く指定伝統工芸品で福島県浪江町に窯を構える窯元であった。東日本大震災から9年が経ったが、いまだ浪江町は帰宅困難地域から解除されないため、窯元は移転を決意し本プロジェクトが始まった。
大堀相馬焼の特徴は二重構造にある。お湯が冷めにくく、また熱い湯を入れても持つことが出来るというこの技法は、生活に溶け込んだ陶器である大堀相馬焼にしかない珍しい技法だ。この特徴を建築でも取り込み、表現できないかと考えることからスタートした。外観には、周辺の景観とこの地の気候を踏まえ、雪が落ちるだけの勾配をもったシンプルな家形を採用した。この家形を2つ並べ、それを大きな家形で囲むことで二重構造を形成する。外周部には余白空間が生まれ、断熱、明かりとり、構造、収納などの機能が生まれる。陶器同様に余白が重要な意味を持つ形状とした。ロードサイド型の店舗兼アトリエなので、アイコン性を高めるようにシンプルな家形のファサードとした。建物全体を400mm持ち上げることで、積雪に対応するとともに、浮いているような軽やかな印象をもつようにした。高くなっている分、建物に近づくと見上げるアングルになり、内部にも家形が連続していることが見える。平面プランは、ろくろ場や窯場、事務所など機能が決まっている諸室は「内の家形」の中にまとめ、それ以外の部分は余白としてショップやギャラリー空間となるようにした。建築の中に入り、二重構造の空間を体験してもらうことが、大堀相馬焼のそれを知っていただく最良の手だと考え、真壁とすることで柱と梁のフレームを強調し、二重構造を分かりやすく視覚化しながら空間にリズムを与えるようにした。また内装材をラワン合板に絞ることで主役である陶器が映えるようにした。訪れる客は余白空間のギャラリーショップから、ろくろ場などの製作工程を眺めながら購入体験ができる動線計画となっている。構造は木造で7.2mのワイドスパンの無柱空間とし、工房の機能性を挙げるとともに、ショップの自由なレイアウトが可能だ。建築と陶器というスケールの違うものが、同じ構成を取ることで相互に影響しあい、デザインの強度が増すと信じている。(杤尾直也/to-ripple

 

「大堀相馬焼松永窯」
所在地:福島県西白河郡西郷村小田倉小田倉原1-31
オープン:2021年3月
建築・内装設計:to-ripple 杤尾直也 秋山照夫
什器デザイン:寺内デザインオフィス 寺内ユミ
施工:工房夢蔵
敷地面積:1018.8㎡
建築面積:373.4㎡
延床面積:331.2㎡
Photo:益永研司

【内外装仕様データ】
〈外装〉
屋根・壁:ガルバリウム鋼板t0.35縦葺
壁:窯業系サイディング(SOLIDO/ケイミュー
〈内装〉
床:コンクリート金ゴテ仕上げ 複合フローリング仕上げ
壁・天井:ラワン合板t5.5貼り
什器:ラーチ合板 カウンター/カーボランダム+ラーチ合板


杤尾直也/to-ripple
1983年兵庫県生まれ。東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻(建築・環境デザイン)修了。株式会社都市デザインシステム(現UDS株式会社)にて、ホテル、オフィス、飲食店など多様な設計を手掛る。2017年に株式会社to-rippleを設立。「状況のデザイン」をテーマに建築設計、インテリアデザイン、家具・備品のデザイン、ネーミングなど建築の枠を超えたデザインを手がけ、心地よい体験をプロデュースしている。東北大学大学院工学研究科 非常勤講師。

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